めーる
※2006年02月27日110号

危機管理

 
     
 
私の仕事は保険屋です。
かっこうよく言うとリスク・コンサルタントです。
保険はリスクに遭った時の経済的な負担を補うものですが、
ほんとうに大切なのは”事故”に直面した時の対応の仕方なのです。

最近のニュースを見ていて、そのマズさが目につきます。
東横インの社長の最初の記者会見も「真面目に誠意を持って対処していたら、マスコミも面白がって
取り上げなかったでしょうし、あそこまでのダメッジはなかったと思います。」
雪印乳業は社長の「私も寝てない!」とのひと言が命取りになったと言われているのです。

22日(水)…とても危機管理の無い、ある生命保険会社の部長さんとお逢いしました。
場所はその保険会社に加入されているお客様のご自宅です。

昨年の11月の始め、お得意様のご自宅に海外旅行保険の事で訪問した時のことです。
妹さんのHさんが見えていて生命保険の話になりました。
ある生命保険会社の新型保険に転換したばかりで設計書まで持っておられたのです。
58歳のご主人の保険で簡単に言ってしまえば前の契約を転換(解約)することで
200万円の転換資金を10年間の保障で使い切ってしまおうというものです。
10年経過すれば保障も資産価値もほとんどなくなってしまうのです。

Hさんはそんな保険とは理解しておらず、要望にもまったく応えていないとショックを受けられました。
契約からそれほど経過していないし、外交員が保険料の立替までしていたという事ですから
「強く言ったら元に戻せますよ」とアドバイスしておきました。

11月15日、外交員と営業所長が保険会社の解答が出たのでHさん宅に来るというので、
私もアドバイザーとして立ち合わせてもらいました。
私が居ることに二人はビックリしたようですが、私を無視?してHさんに説明しました。
「会社に契約の取消し申請したのですが却下されました、したがって今のご契約をこのようにして…」

私はそこで口を挟みました。
「会社で却下されたと言われましたが、それはどこの誰が却下したのか担当者を教えてください、
今ココで電話して確認させて頂きますから」
所長の顔つきがかすかに変わりました。
「もう一度、社に戻って再度申請を出します」と言って慌てて帰ってしまいました。
二人が帰ったあと私は言いました。
「ちょっと甘く見られてようですね、今度こそ早急に戻すでしょう」と。

しかし12月に入っても何の連絡もなく、Hさんが催促しても
「まだ本社からの返事が来ないので…」の一点張りだというのです。
そして年が明けても進展がありません。

問題の多い契約ですから契約は白紙に戻せると思っていましたが、あまりにも対応が遅いので、
Hさんから外交員のケータイを聞いて直接状況を聞いてみることにしました。
外交員のことを考えて私は、なるべく内密にして早く処理させてやろうと思っていたのです。
事が明るみに出たら末端の外交員に責任の全てが押し付けられるのを数多く見てきたからです。

Hさんは転換する前、加入していた保険の保障内容を大きく減額したいと思っていました。
それが転換で消滅し、新しい保険に切り替わったわのです。
問題は…
保険契約を白紙に戻したら新しい契約は消滅しその分の保険料は返されるのですが
引き換えに古い契約が復活し、その分の保険料は転換時から遡って支払うことになります。
それは困るから減額したいと思っても、古い契約が復活するまで手がつけられません。
そのことを外交員に告げると…
「減額の話はHさんから聞いています、その事も含めて申請を出しているので時間がかかっているのです。」
そして…「元の契約の減額は転換の時点でした事になりますので、転換取消しが長引いたからといって
Hさんの負担が増える事は決してありません」と断言するのです。

保険契約の減額を口頭だけでやれるはあまり信じられませんが…
そこまで断言するなら様子を見る事にしました。

2月16日(木)Hさんから電話がありました。
保険会社から来た葉書に1ヵ月分だけ返還すると書いてあるので
外交員にその意味を聞いたのだけどサッパリわからなというのです。
その葉書をFAXしてもらい外交員に電話をしました。
このヤリトリは書き出すと複雑で長くなるのでカットします(^_^;)

ようするに進展も誠意も一切見られない事がハッキリしたので…
「明日!誰でも良いから、このことでちゃんと説明出来る担当者をHさん宅につれて来て欲しい、
それが出来ないなら、出るとこに出で決着をつけさせてもらいます。」と強行姿勢に出たのです。

しかし翌朝Hさん宅に「今日は行けないので後日連絡する…」というそっけない電話が入りました。
外交員のケータイに電話しても出ません、所長も昨日から不在という事です。
営業所を束ねている支社に電話をいれました。
窓口の女性に経緯を説明し、その事が判る担当者から至急電話をして欲しい旨を伝えました。

ところが3時間ほど経過しても何の連絡もありません。
支社では衝撃的な電話に事実確認で時間がかかっているのだろうと勝手に想像していたのですが、
私も外出の予定もあるので、こちらから支社に電話しました。
「誰にお話されたのでしょうか?」窓口の女性はそっけなく聞きます。
私は直ぐに折り返しの電話があるものと思っていたので、名前は聞いていませんでした。
「内容が内容だから、誰が受けたか判るはずだ!」と言ってもラチがあきません。
こんどは窓口の女性の名前を確認し、また前回と同じ説明をイチからするしかありません。
私も出かける予定もあり、今度は30分以内に担当者から電話をするように言いました。

45分経過しても連絡がないので、こんどは先ほど窓口に出た女性を名指しで電話をいれました。
今、電話中ということなので、終わりしだい連絡が欲しいと言って、それから30分ほどして
やっと電話が入り、Kと名乗る男と変わりました。
ところが驚くことにまた、Kは話をよく把握していないのでイチから説明して欲しいというのです。
コレで、同じ話を同じ支社の人間に続けて3回もしたことになります。
私の話をさんざん聞いておいてKは言いました
「今しばらく待って下さい」…。

私は怒りを抑え、前日の外交員に言ったのと同様の強硬姿勢に出ました。
「つべこべ言わずに、22日にそれまでの経緯と、これからどうなるかを説明にHさん宅に来て下さい
それが出来ないなら、出るとこに出で決着をつけさせてもらいます。」と

ココで冒頭の2月22日にやっとたどりつきます(^_^;)

Kと所長の二人がやってきました。
Kは総務部長の名刺を慇懃に出して”外交員の不手際”を謝りました。
そして転換契約を元に戻すこと、前の契約は本来なら3月引落とし分から減額されるのを
特別に1月分からにしますと、事務的に恩着せがましく言うのです。

「どうして1月分からなのですか外交員さんは転換時点に遡ってと言ったのですよ」
との私の質問に部長は
「いや、私が確認したところ、本人hそのようなことは言った覚えがないと言っています」
それにはHさんも「ウソだ!」と声を出して怒りましたが、その本人はいません。
Kは続けます「したがって、1月分から特別に対応すると申しているのです」

「ちょとまって下さいよ、直ぐに対応して頂いていたら、遅くても12月には契約が元に戻され、
減額手続きをすれば12月の保険料は安く出来たはずです」
との私の質問に部長は得意気に答えました。
「それはムリですよ、12月のよっぽど早い時期ならともかく…通常はその月に異動した契約の
保険料は翌月、すなわち今回の場合なら1月から反映されるのです、それを配慮してのこのような計らいを
させて頂いたのです」

私も一応、保険のプロです。(^_^;)
どこの生命保険会社も基本的には、その月に減額や解約が行われ会社が承認すれば
その月の保険料に反映されるようになっているのです。
問題は会社が承認するの遅らせたり時間がかかるシステムだと、
その月に承認されず来月に廻され契約者は余分に一ヶ月分払うハメになるのです。
(あんしん生命は末日まで、郵送の場合は翌月の3日着くらいまで受け付けています)
ようするにKが言うのは社内規定の事務的問題です。
それにKの「通常は…」と言う言葉がひっかかりました。

「契約を取る時は特例を設けてでも処理するのに、保険会社に都合の悪いことは”通常”のシステムでしか
処理出来ないというのは私には納得いかないですね。
転換時点からとは言いませんから、せめて12月分から減額された保険料にするのがスジでしょう!」

Kはしばらく黙って、そして言いました。
「わかりました、もう一度社に持ち帰って…」

私はそこでツイに切れました(その前からキレていましたが)
「ちょっと待って下さい!責任者として部長のあなたが来たのでしょう、
この程度の要望も決められず会社にもどって誰と相談して、いつ返事をくれるというのですか、
私もこんな事にいつまでも付き合わされたらたまりません。」

Hさんもいいました「12月の分は払いますから、もう結構です!さっさと手続きをしてください!」
お客様をそこまで怒らせたら、私なら居たたまれなくなるとおもうのですが…
K部長と所長は無表情に、しかもホッとした様子で手続きを始めたのです。

契約者の怒りや不満など、どうでも良いようです。
事務手続きをしたら早くこの場からさりたいとだけ思っているようです。
そんな二人の態度や、これまでの保険会社の対応を見ていて、私は納得しました。
この保険会社では、このような事は日常茶飯事で、これが通常だということを
彼らはそれらに毎日追われ完全に神経が麻痺しているのでしょう、多分。

そう考えると、興奮して怒りまくっていた自分がバカみたいですが…(^_^;)
あまりの【危機管理】のなさにHさんと笑ってしまいました。